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量子コンピュータとは何か?

シンラボ編集部
2019/09/16

※本記事は、未来技術推進協会ホームページにて2018年1月30日に掲載されたものです。

みなさん、こんにちは。
松下忍です。

最近はAIやらVRやらと日常生活に新しい技術が急速に普及していると感じます。
同時に、コンピュータの性能はここ数年で頭打ちになってきました。
コンピュータに詳しい方ならば、ムーアの法則というものを聞いたことがあると思います。

ムーアとは、インテルの創業者「ゴードン・ムーア」のことで、「CPU(中央演算装置)の処理能力は18カ月で2倍になる」という、本人の経験から導き出した法則です。

ここ10年近くの間、その法則は限界に達するのではという見方が出ており、実際にCPUの周波数の上昇はあまり見られず、代わりにコア数を増やして並列処理にとって代わっている傾向があります。


そこで、徐々に注目されてきているのが「量子コンピュータ」というものです。
みなさんも、「量子」という言葉を聞いたことがあるかと思います。特に、量子からは「量子力学」を連想する方も多いと思います。
量子力学と言えば、アメリカの物理学者で量子コンピュータの第1人者であるリチャード・ファインマン氏曰く、「量子力学を理解したと言っている人は量子力学を理解していない」というほど、専門家の間でも理解している人はまずいないと言われるほど難解なものです。それは、電子が波であり同時に粒であるなど、量子力学から出てくる結果が常識では理解できないほどのものなのです。

量子コンピューターが高速なのは、通常のコンピューターが1つのビットに対して「1」か「0」しか扱えないのに対し、量子コンピューターでは「1」と「0」の両方の情報を持たせることができるからなのです。

そもそも、量子コンピュータの概念が誕生したのは1980年代のことで、イリノイ州のアルゴンヌ国立研究所のPaul Benioff(ポールベニオフ)氏などが、それまでは量子というものがコンピュータに使えないと言われてきたものが実は有効であることに気づいたところから研究が発展しました。

そして、1994年に電気事業やプログラミング理論で大手のベル研究所(ベル研)のPeter Shor(ピーターショア)の示した因数分解のアルゴリズムによって、それまでは暗号システムの解読が宇宙年ほどかかると言われていたものが、量子コンピュータを使えばほんの数分で解けると示し、世界を驚かせ注目を浴びました。

特に、私たちのデジタル生活でよく使われている「RSA暗号システム」は因数分解に基づいているため、もし量子コンピュータで暗号が破られればネットもメールも電話も何もかもが信用できなくなると恐れられました。

ただし、量子コンピュータの研究の第一人者である東京工業大学の西森秀稔(にしもりひでとし)教授によれば、「RSA暗号が破られることは理論上は存在するが、そのためには1億もの量子ビットを実装するマシンが必要とされており、実質的には実現不可能である」とのことです。

実際、米IBMが2017年11月に実現した量子コンピュータはまだ50量子ビット程度で、今のところは暗号が破られる心配はないとのことです。

もうひとつの量子コンピュータ

ここまでは「論理ゲート方式」の量子コンピュータについて説明してきましたが、最近は「量子アニーリング方式」という方式も注目されています。

西森教授は共同研究者の門脇氏
と共に量子アニーリング方式の理論の先駆者でありますが、2013年に西森教授の量子アニーリングの理論に基づいた世界初の市販量子コンピュータ「D-Wave2」が、カナダのD-Waveシステムズから販売されました。
その顧客にはアメリカのGoogleとNASAがなり、また、2014年9月にはGoogleが量子コンピュータの開発に着手すると発表しました。

日本の研究が皮肉にも海外で生かされていることは、日本の研究者は世界でも通用することを示していると同時に、開発に関しては世界に後れを取っていると感じます。

私たち未来技術推進協会では、実際に西森教授にお越し頂いて講演会を開催したこともあり、20代30代の若手が中心となって産学連携に働きかけ、世に誇れる研究者・技術者を輩出していこうという取り組みに対して、西森教授からも賛同いただいております。

それでは、次回は量子コンピュータの2つの方式「論理ゲート方式」と「量子アニーリング方式」について、西森教授の考察と共に話していきたいと思います。


参考文献

この記事を書いた人
シンラボ編集部
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