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『地中の星』背景解説ー30代でたった1人の男が起業して作った地下鉄

KURO
2021/11/30

たった一人で、日本で初めての地下鉄を造る

最近、日本橋の丸善に行ったら、入口に『地中の星』という本が平積みされていました。門井慶喜著『地中の星』は、日本で初めて地下鉄の開業を実現させた、今の東京メトロを作り、東京の大動脈を形成した人でもあるし(開通させたのは銀座線の一部区間)、札幌から福岡まで、日本各地に存在する地下鉄の礎を築いたことにもなります。それも、国でも大企業でもなく、たった一人の人間であることに驚かされます。

それに至る経緯は小説をご覧いただくとして、ここでは時代背景とか、地下鉄建設の意義などについて解説していきます。

東洋初の地下鉄

1927年、銀座線の上野ー浅草間は東洋発の地下鉄として開業しました。短距離路線に関わらず、当時からすると未来の乗り物として、物珍しさからか、開業当初は遊園地のような行列が出来ていたそうです。車両は早川氏がドイツ留学で見た、黄色い乗り物を日本で再現するとして、真っ黄色の車両も珍しいものでした。今の銀座線の車両は、その初代の車両をモチーフにしており、開業当初の黄色い車両が受け継がれています。車両の他にも、日本初の自動改札機(コインを入れると入り口が開くギミック)など、面白い仕掛けが施されています。

1927年の鉄道

1923年、東京の歴史を大きく動かすことになる、関東大震災が発生。ここから、4年という歳月と、年号も変わり、昭和2年(1927年)に地下鉄は開通しました。ちなみに、関東大震災後に建設を始めたのではなく、建設中に地震に遭っているので、その被害は受けています。交通網でいうと、2年間の1925年に山手線最後の区間、神田ー上野間が開通しています。この時はまだ、総武線が秋葉原まで乗り入れしていませんが、JRの交通網は大体形成されていました。また、郊外に向かうものは汽車が走っていましたが、都心を走行するのは電車。東京の鉄道は直流が多いので、変電所の確保が必然ということで、電化は都心に留まりました。ざっくりと、今でいう、山手線と中央線各駅停車が電車で、東海道線とか中央線快速で汽車が走っていた、そのようなイメージです。

地下鉄と国の関係

電車に地下鉄、今でも重宝されるインフラが100年前に作られた訳ですが、鉄道ひとつとっても、国の歴史が色濃く反映されている場合が多いです。例えば、韓国と北朝鮮の地下鉄は、ほぼ同時期の1970年代に開業しています。これは、朝鮮戦争停止後に建設を始めたことで、お互いの国力を見せつけ合っています。また、台湾で最初に地下鉄が開通したのは1997年(ただし、この時点ではほとんど高架区間)で、東アジアの中ではかなり新しめです。こちらも、戒厳令やフォルモサ事件と関係しています。このように見ると、地下鉄のように長い期間と、お金がかかるインフラ建設は、国が安定していないと難しいことが分かります。それも、国主導ではなく民間主導で出来たということは、国の安定に加え、民間のリーダーシップの強さが伺えます。

ぜひ『地中の星』を時代背景や国の歴史など、いろんな角度から見てみてください。

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KURO
エディター