【地方創生xワーケーションサービス検討】福島県 灯まつりボランティア
目次
福島県 灯まつりボランティア
~地域活性化イベントを通した関係人口づくり~
はじめに
福島県の東側に位置する田村市。そこの地域コミュニティ活性化のイベントのお手伝いに小学生の娘を連れて参加してきた。当初の狙いは、ワーケーション体験の一環にできないかとの考えからであった。ただし、実際には祭の出店・交流会の調理のお手伝い、車での移動がほとんどで、仕事に取りかかれたのは往復の新幹線のみであった。一方で、関係人口という面では、新しいサービスを考える上でヒントが得られた。
中心人物の存在
灯まつり
今回のイベントは「灯まつり」と名付けられている。竹を割った筒にろうそくを灯した物を、自然の風景の中に無数に並べ夜を照らすというものだ。開催地である田村市都路(みやこじ)の復興支援でリコージャパン(リコーの販売子会社:以下リコーと略す)が2014年から関わっている。コロナ禍で中止を余儀なくされたことにより、会社としての支援は終了したが、リコー関係者の方々が、昨年より福島の支社+有志で祭のボランティアを再開していた。今回このメンバーに加えてもらう形で参加した。
今年は、このイベントと現地の盆踊り大会を合体した形で行われた。このうち、「灯まつり」に関して無くてはならないのが、地域のコミュニティスペースでもあり、食堂でもあり、また、手工芸品製造販売所でもある「よりあい処 華(はな)」のオーナーの存在だ。この方は、原発事故の避難でバラバラになってしまった地域コミュニティを復活させたいとの思いで「華」を立ち上げた。 *1
イベントでは、この方を中心に、盆踊り会場で地域の人達で屋台を出していた。イベントの最中は、のんびりとボランティアの人達に声を掛けて回っていて「飛び回る」という風情ではなかったのだが、この人がいないとまとまらない、といった印象を受けた。実際、「華」の立ち上げに関わった県外からのボランティア面々は、10年経った今も、「華」に顔を出すそうだ。私が、かぼちゃの煮物の作り方を間違えても、「いいのよ、好きなように作ってもらって」と気にしない気立ての良い方だ。
*1 よりあい処 華の成り立ちについては、以下の記事参照
https://nativ.media/52418/
移住して来る人も
都路は、他の避難地域と比べて帰還率が高いとのことである。親子で戻っている世帯も多いとのこと。オーナーは、自然豊かなこの地域が好き、という子供が多いと感じるという。*2
今年移り住んで来たという方々2名と一緒に作業する機会があった。お一人は、里山で暮らしたいと埼玉から家族で移り住んだ子育て世代の方。もう一方は、山に居るのが好きとのことで林業の会社に勤め始めた青年だ。こういった方達にとっても「華」のオーナーは頼りになる存在だ。
*2 関連記事
https://josen.env.go.jp/plaza/about/communication/michisagashi/2007_01/
リコーの方達
元々は、会社の社会貢献事業として、都路が選ばれて、人的支援と金銭的支援が始まったとのことである。その後、コロナ禍での中断もあり、会社としての支援はなくなったが、有志を募ってまた「灯まつり」を再開している。その間には、定年を迎え退社された方もいるのだが、その後も変わらず通いつづけておられる方もいて、「同窓会気分」と話されていた。
大学生達
桜美林大学の学生逹が、授業の一環として毎年この地を訪れているそうである。その中で、「華」の敷地にピザ窯を建てるプロジェクトに参加した年度の学生達が、既に卒業してしまっているのにも関わらず、その後の地震で崩れてしまった窯の修復を祭の数ヶ月前に行っている。このピザ窯修復には、他に、技術指導役として地元のNPO、修復費用支援としてリコーグループが参加している。そして今回、再建のお披露目として、祭の翌日に関係者を集めてのピザの振る舞いが執り行われた。私と娘も調理のお手伝いで参加させて頂いた。「華」のオーナーは、「こうして、みんなでまた集まれたのが嬉しい」と話されていたのが印象的だった。
新しい観光の形
今回のようなイベントにボランティアとして関わるということは、単なる物見遊山的な観光ではない、新しい時代の観光の形があるように感じた。その際、第一に、祭のような定期的なイベントが継続的な参加を促す「口実」となりうることが示されている。第二に、ピザ窯や「華」のような形のある物が、人のつながりを象徴的に表わす物としての機能を果たしているように感じる。地域の関係人口を生み出そうとする時に、これら2つの要素を作ることが役に立つのではないだろうか。
地域の物産
郡山駅までの送迎をしてくれた方が、途中、地元のスーパーなどに立ち寄って、地元企業の油揚げやパック飲料、菓子パン、地元和菓子店の名物といった、ちょっとしたおいしい物、また、有名なお土産品でも「私はいつも、これとこれのセットを持っていきます」といった本音の情報を紹介してくれたのが良かった。
こういった物も、ネットに上げてしまったら、単なるグルメ情報として他地域の製品と比較され、ただ情報を消費されて終わってしまうだけのように思う。それよりも、現地に行って、地元の人から教えてもらって、その場で買ったり、食べたりすることで価値が生まれるのではないだろうか。
最初にサンプルとしてこういった物産品をセットで往きに配ってしまって(買ってもらってもいい)、どこかの段階で取りまとめて、帰りにお渡しするのでもいいかもしれない。以前参加したバス旅行ツアーで、一口サイズのお菓子を「プレゼントです」と言って車内で渡され、後から注文を聞きにきたということを体験した。それを、さらに体験価値を大事にしてアレンジすると良いかもしれない。上記の油揚げなど生鮮品は、宿泊する所でメニューとして出すといいかもしれない。
課題
関係の持続性
「また来てね」と言われて、その時はその気になっても、よほど強い動機がないと「そのうちに」となってしまいがちである。そこで、何か地元の農産品などで育成が必要な物のオーナー制度会員を募って、発育の様子を見に来るという口実を用意したらどうだろうか。
そういったことを地域ぐるみで行うのに、「労働者協同組合」(労働組合ではない)という比較的新しい法人の枠組みを使うと良さそうに感じる。これは、個人商店などや副業人材など複数の人・事業が会員となる非営利の法人形態とのことである。例えば、地域の個人店の将来にわたっての継続性という観点から事業承継といったことを考えると、こういった枠組みを地域ごとに立ち上げるのもいいかもしれない。
交通
都路までは、東北新幹線の郡山駅までリコーの方に迎えに来てもらったのだが、1時間ほどかかる。直接都路に向かう公共交通はなく、郡山からいわき方面へローカル線で来て、その駅から路線バスで50分とのことだ。以前バスで行かれた方に聞くと、都路方面まで乗る方はだれもいないような路線とのことで、この地域の交通機関として機能していない。
1つのアイデアとして、自家用有償旅客運送 *3 の仕組みを使って、郡山への送迎をしてくれた方に、地元物産販売・飲食などによる収益から謝礼をお支払いするのはどうだろうか。
宿泊に関しては、今回泊まったロッジは、クラフトビールの醸造所に併設された素晴らしい施設だったが、山あいで周囲にお店がなく、自家用車以外だと使いづらい。町の中心地は、こじんまりとまとまっているのだが、旅館は1つしかない。また、町外れに1軒だけあるコンビニは、自転車があれば大したことなさそうだが、歩きだとしんどい距離だ。シェアサイクルがあるといいかもしれない。上記のロッジも電動アシスト自転車ならなんとか行けるぐらいの距離だそうである。
*3 自家用有償旅客運送の仕組みについては以下のページ参照
https://kotsutorisetsu.com/20200815-01/
【補足】現地での活動
1日目は、前述の「よりあい処 華」で出店したブースの一角を借りてリコーの方達が開催した風車作り体験での、製作指導役と焼鳥調理である。「華」のブースでは、他に、地元特有のきのこを使ったおこわ、豚汁、手作りドリンク、クラフトビールといったものを販売していた。
2日目は、「華」で開かれた、今回のボランティアメンバーの交流会での食事の調理を一緒に行うことであった(他、前日の片付けを担当した方達もいる)。
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