未来を創る、テックコミュニティー

ゲームキャスター岸大河さんが語る「esportsの先に描く未来」

シンラボ編集部
2019/09/16

※本記事は、未来技術推進協会ホームページにて2018年6月29日に掲載されたものです。

私たち未来技術推進協会は、AI(人工知能)やAR(拡張現実)、VR(仮想現実)など新しいテクノロジーを通して社会課題に貢献することを目的としています。具体的には、講演会や、アイデアソン、ハッカソンなどのイベントを企画し、大学、企業、起業家、投資家などのコミュニティを形成し、相互に連携し課題解決に向けて活動しています。

そんな折、ARやVRも活用が期待される「esports」が注目を集めはじめていることを知りました。esportsとは、「electronic sports」の略で、複数で行うコンピューターゲーム(ビデオゲーム)を使った対戦をスポーツ競技の総称です。欧米では昔からゲームをスポーツとして捉えプロの選手もいるほど浸透しています。esportsはオリンピックの競技種目として候補に上がっており、日本でもこの1、2年で注目され盛り上がりを見せています。

そんなesportsの今後について、ゲーム業界でプレイヤーとしても活躍し、現在はゲームキャスターの第一人者として最前線を走り続けている岸大河氏との単独インタビューが実現しました。
今回は、ゲームキャスターに至った経緯や仕事観、esportsを通して描いている未来像について伺いました。


仕事に対する価値観

協会:
まず未来技術と聞いて、何をイメージされますか?

岸氏:
僕はどちらかというとゲーム業界なので、例えばVRとか、そこから派生するAR技術とかが考えられるかな。現実世界とバーチャルの世界の融合ですよね。実生活にゲームらしきものが入ってきたり、ゲームに実生活が入ってきたりとか、どっちもあるのかなと思っています。

協会:
私たち未来技術推進協会のHPをご覧いただきインタビューを承諾いただいたとのことですが、私たちの活動にも興味を持って頂けましたでしょうか?

岸氏:
ゲームだけじゃなく、ゲーム以外のことにも貢献したいというか。全然ゲームに縛られるつもりもないので。フリーでやってるので、面白いことやってたら食いついて行きたいなと思っています。
自分の興味持ったものに対して、どんどん効率あげたいなっていうのもありますし、今もゲームの大会の実況とかMCをさせて頂いていて、誰もやってない場所をずっと一人で追い続けてるような感じで。

先駆者がいないので、自分たちで考えながらできるのが面白く、新しいもので誰もやってないことがあれば挑戦していきたいっていう思いを持っています。ゲームアナウンサーの方はいらっしゃるんですが、ゲームの仕事だけで生きていける方はいません。僕は5~6年ほど前からやっていたんですが、ここ2~3年でゲーム業界が発展してきたのもあって、仕事が増えてきました。想像通りになってきたなという感じですね。

協会:
普段イベントとかで活躍することが多いと思いますが、それ以外でお仕事とかはされているのですか?

岸氏:
大きく分けて、仕事としては3つの軸があります。
1つはメインでやってる実況、MCといった、「出演側」。2つ目は、ゲーム会社やチームに対しての「コンサルティング」。それから3つ目は、スポンサーの宣伝活動やコラムのライターなどの「ライティング」。

ゲームの時間がどれくらい確保できるかが大事なので、プライベートの時間もつい仕事のための準備や勉強に使ってしまいますね。プライベートで遊びにいくときも、仕事のために見に行こうかなって思ったりします。
もちろん、ゲームが好きというのが大きいのですが、突き詰めたいとか、自分の限界ってどこまであるんだろうって可能性をみることがとても楽しいです。

ゲームに興味を持ったきっかけ

協会:
もともとサッカーをやっていて、プロを目指していたとのことですが、なぜゲームの世界に?

岸氏:
きっかけは、中学の頃です。自分では言いにくいんですけど割といい私立の小学校から大学までエスカレーター式の学校に通っていました。中学校ではサッカーを続けていたので、朝6時に家を出て、夜11時に家に帰るというスケジュールで努力していました。

しかし、同じ時期に学校では小さな問題が積み重なって、大事になった事がありました。先生とのやりとりで行き違いもあったり、思春期で精神的にも不安定だったことも重なり、もう学校に行かなくても良いのではないかと思って、行くのをやめました。その結果、サッカーを続けながら、それ以外の時間はゲームやパソコンの世界にのめり込んでいったイメージです。

協会:
ゲームの面白さに目覚めたんですね。そこから極めようと思ったきっかけは何ですか?

岸氏:
17歳にシューティングゲームを通して大会があることを知ったのがきっかけです。そこで、プロゲーマーという職業があることを知りました。ただ、2008年の東京ゲームショーで初めて大会に出て優勝したんですが、優勝してもプロになることはなく、自分の世界があまり変わらないことに気づきました。大会で優勝してプロになるかどうかはゲームのタイトルによるんです。
スポーツのように、サッカーや野球などのメジャースポーツはプロへの道は開けていても、他のマイナースポーツはプロへの道は厳しいのと同じです。

ただ、その時にゲームを通して社会貢献が出来たら良いなと思いました。ゲームを続けて5~6年で様々なイベントや開会に出場して、自分のバリューを上げながら今に至ります。

「プレイヤー」から「キャスター」の道へ

協会:
他業界の有名スポーツ選手とかとはちょっと違うなという印象を持たれたということで、キャスターになったのもそこからでしょうか?

岸氏:
そうですね、実況に入り始めたのは、自分の得意なゲームの解説動画を上げていたことがきっかけです。上げていた動画がたまたまメーカーの方の目に留まって、声がかかりました。それ以降、違うメーカーの方からも声を掛けていただいて、徐々に出演回数が増えました。そこそこ稼げるようにもなってきたので、キャスターに専念しようと思い、23歳になる頃にゲームプレーヤーからゲームキャスターの世界に入りました。

「ゲームキャスター」という道を創っていく

協会:
実況されてて楽しさとかやりがいはどういうところにありますか?

岸氏:
自分の言葉で、ゲームの状況を皆さんに伝える事が面白いです。あとは、誰もやってないからっていうのがあって、どうやったらみんなに面白く見てもらえるんだろうっていう、試行錯誤を自分でできるっていうのはいいですね。誰にも指示されずに自分で責任を負って、成功すれば自分が貢献したことになるし、失敗すれば自分の仕事がなくなるリスクがあるので、覚悟を決めてやるしかない職だとは思います。十分やりがいのある仕事だと思っています。

協会:
私達の周りはみんな普通に大学を出て就職する人がほとんどですが、周りと違うことをやるのって結構勇気が入りますし、反対もあったと思います。そういうものをはねのける芯の強さの元はなんですか?

岸氏:
ゲームの大会に出たときに、この仕事は需要があると思っていたので確信に迫る自信みたいなものはありました。でも、一番は親が認めてくれたことです。もちろん親として、就職を勧められることはありましたが、今の仕事を大切にしたいし、稼ぎもあってもう少しやりたい、と自分の気持を真剣に伝えているうちに親も理解してくれました。親や家族の理解や支えがあることがとても大切だと思います。

僕にとって幼稚園の頃からサッカーをやってたときが1つ目の人生で、16歳のときにゲームに出会ったときからが2つ目の人生です。2つ目のの人生では、ゲームでどこまでプロとして突き詰められるか、突き詰めたらビジネスになるのか挑戦したいです。一つの実験のような感じですね。道を作ってあげることでゲーム業界が発展したり、次世代が稼げるようになったりしてくれればいい。そういうことはずっと考えています。

ロジクールのブランドアンバサダーという立場や、「OMEN」というゲーミングPCを作っている日本HPとは、エグゼクティブアドバイザーという立場では、ブランドイメージを作り上げたりイベントに出演したり、プロモーションを協力してやる契約ですが、僕がいなくなった後にやってくる後任が仕事をしやすいように席を空けてあげるのも仕事だと思っています。

協会:
では、後任を育成することも視野に入れているのでしょうか?

岸氏:
もちろん視野に入れてます。2020年のオリンピックではesportsも競技として入ってくるという情報もあり、その時には、アナウンサーなど放送局の方々がどんどん入ってくるだろうと想像はしているので、危機感も感じています。そのような未来になったときに、esports の業界で一番影響が大きく出るのは僕らのようなゲームキャスターです。ゲームキャスターはアナウンサーにはないものを出して行く必要があります。

ゲームの実況は、ほかのスポーツと違って難しいんです。最近は5対5やバトルロイヤルで1x1x1が100人いる、もしくは、4×20チームなど誰がどこで戦ってるかわからないようなゲームが増えているので、カメラワークも大事だし、どんな戦いがあったか整理する必要もあるので、ゲームをよく知っている人じゃないと難しいと思います。

もちろんそれを言葉に変えて、うまく言い回すことはアナウンサーの方もできるかもしれませんが、「この人ゲームを知らないな」と思われるとゲーマーに受け入れてもらえなくなります。このキャスターはゲームが好きで実況もやってくれてるなと選手にも視聴者にもしっかり伝える必要はあるし、そこを無視した実況はして欲しくないです。

※インタビュー写真:

今後の日本でのesports発展のために

協会:
韓国やアメリカはニュースで見ると賞金額や規模の違いがあるかと思いますが、日本が追いつくにはどうすれば良いと思いますか?

岸氏:
日本と他の国の文化の違い、人間性の違いもあるので、韓国やアメリカのようなesportsを目指した方が良い部分と目指さなくて良い部分はあると思います。
海外では、高額の賞金をかけていたり、大規模なイベントを開催していたりしますが、日本でもやらなきゃいけない訳ではありません。
日本の競技人口、認知度、ゲームに対する価値観を考慮していくべきだと考えています。

逆に海外のesportsを習ったほうが良いと思うのは、演出部分ですね。例えば、クレーンカメラを入れたり、AR技術を活用したりなど、もう少しかっこいい見せ方はたくさんあるはずです。

現在、「esports」がバズワードになったり、ゲーム文化が注目されていたりするからこそ、一旦地に足をつけて冷静になる必要はあります。
esportsの世界はバブル期に入っている印象があるので、このまま伸び続け、業界が膨張して崩壊するのだけは避けたいです。

esportsを発展させるためには企業間競争もありつつも、それぞれの企業が自社の考え方は大事にしながら良いところは吸収して伸ばしていく。ただ仲良くするのではなく、そうすることで新しいアイデアが生まれとより良くなっていくとと思います。

協会:
おっしゃる通り企業間でのイノベーションですね。まさしく私たち協会も取り組んでいる、企業ごとにクローズせず、一緒に発展させていこうという考え方に似ています。
そこから日本独自の目線として、他にどういった機会があれば、バブル的ではなく持続的な発展をしていけるでしょうか?

岸氏:
ゲーム業界を飛び越えて、他の業界と協力することが大切ですね。例えば、僕が昔行ったサッカーのイベントでは吉本の芸人さん 対 韓国のアイドルグループの試合がありました。そこの会場は満席で、普通のサッカーの試合とは違い、女性が多く観に来ていました。
サッカーを知らなさそうな人も多いようでしたが、ゴールが入って歓声が挙がったのをみて、ルールがわからなくてもサッカーの面白さに触れるきっかけになるんだと気づきました。もちろんこのイベントを通じで吉本の芸人さんやアイドルのファンも増えたかもしれません。

そう考えると、今はゲームに触れる機会を増やしてあげるのがいいと考えています。

ゲームを通してどう社会貢献していくか?

協会:
最後に、3つお聞きしたいんですが、ゲームを仕事に活かせるという話を頂きましたが、ゲームを通して社会貢献として何ができると思いますか?

岸氏:
いろんなものがあると思います。例えば地方でのイベントも1つの社会貢献になると思うんです。最近は地方イベントも増えてきて、富山とか名古屋でesportsを使ったイベントやったり、「C4 LAN」というLANパーティをやったりしています。

このイベントはみんなでパソコン持ち寄ってゲームをするイベントで、esportsだけではなく好きなゲームをみんなでやって盛り上がります。ゲームメーカー、VR、PCメーカーなどいろんな企業が入ってきて、そこで企業イベントをやったりすることもあります。これも一種の社会貢献ですね。

また、ゲームは、他の業界と掛け合わせることで貢献することもあると思います。
先程の吉本の芸人さん 対 韓国のアイドルグループのサッカーの試合もそうですし、サッカーゲームFIFAで、esportsとjリーグを合わせた「ejリーグ」があって、esportsの世界大会に出るための日本予選をjリーグが主催しています。

僕も実況で出ますが、そこは掛け合わせによる一種の社会貢献になってくのかなと思います。

協会:
最後2点、キャスターとしてのこれからの目標と、業界としてこうなっていって欲しいという展望があれば教えてください。

岸氏:
キャスターとしての目標というか、悔いのない人生にしたいと思っています。自分の価値を上げたり、お金を稼いでゲーム業界に貢献したいというのはありますが、何より1日1日を大切にしたいです。人との出会いもそうですし、毎日新しいことに挑戦して生きていきたい。

去年結核で入院した経験を通じて、いつ何が起きるかわからないと思いました。今は明日死んでもいいくらいの気持ちで楽しもうと思っているので、悔いはないし、新しいこともどんどん挑戦しています。失敗も人生の貴重な経験なので、セーブできないゲームだと思えばすごく楽しいです。

協会:
では最後に、esportsをまだやったことがない方にメッセージをお願いします。

岸氏:
esportsに興味を持ってほしいです。やっぱり、ゲームを好きであってほしいですね。RPGでも対戦ゲームでも、ジャンルは問わないのでゲームを好きであることがesports発展への第一条件だと思っています。ゲームが好きであれば見せ方がわかるし、選手へのリスペクトも出てきます。なにより、「こうしたらより良くなるな」という気持ちも湧いてくるはず。なので、まずはゲームを好きになってほしいです。

きっかけづくりとしては、サッカーが好きだからサッカーのイベントを見てみようとか、ディズニーが好きだからツムツムのイベントを見てみようとか何でも良いと思います。

ゲームを好きになってもらえたら理想ですが、無理に好きになろうとしなくても、最初はesportsっていう言葉があるんだね、ゲームの大会やってるんだね、程度の認知度で良いと思います。もちろん興味あったら見にきて欲しいですが、少しずつ温まっていくのかなと考えています。

まとめ

まだまだ日本でのesportsの認知度は低いですが、着実に若い世代を中心に広がりつつあると感じました。
実生活との融合などゲームの新しい視点での捉え方、自身の仕事としての価値観、今後のesportsを通した未来像についてインタビューでは熱い想いを伺うことができました。

私たち未来技術推進協会とも講演会や、アイデアソン、オリジナルSDGsボードゲームなどのイベントを通してともに社会貢献に向けてコラボレーションできることを楽しみにしています。

この記事を書いた人
シンラボ編集部
エディター