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3Dフードプリンタの可能性を見る、新しい食の楽しみ方

さとうかな
2020/08/17

最近話題の3Dフードプリンタをご存知でしょうか。その名の通り立体を作り出す3Dプリンターの一つで食品を生み出すプリンタです。3Dフードプリンタの価値を生み出すために邁進する若杉さんにその魅力を語っていただきました。

3Dフードプリンタの研究を始めた経緯

もともと3Dプリンタを専門として、大学、大学院で研究をしていました。3Dプリンタの用途として、これまでのような工業製品の試作・製造などの用途だけではなく、様々な分野と組み合わせることで、新しい価値・面白さが生まれると考えています。

そうした背景から、多領域での3Dプリンタのデザイン応用に興味を持ち、「デジタルファブリケーション×○○」をテーマに活動をしています。修士研究のテーマは「デジタルファブリケーション×フード」で、フードプリンタのハードの低価格化による敷居が下がったことなどがあり、取り組みました。

3Dプリンターを使うと今までのような、型を使って流し込む製法では作れない、かたちの食品が作れるので、造形の制限が開放されます。また、形を変えると食感も変わるため、歯ごたえや舌触りも変わるのではないかと思い、研究に取り組みました。

3Dフードプリンタを使用した研究

研究ではフードデザイナーと協力し、チョコレートを使って3Dフードプリンタでしかできない構造で作成しました。3Dフードプリンタを使えば密度の調整ができるので、食べる向きや角度によって調整できます。

多孔質の形状を造形し、あとからトッピングを手で加えられるようにしました。すべて3Dフードプリンタを使用して作成しなかったのは後加工をしたいというフードデザイナーの希望を反映したかったためです。

研究としては、成形の課題がありました。温めたチョコレートを下から積んで成形するので、冷ましながら積んで行かないとうまく成形できません。そのため複雑な形状では作り出すのに時間がかかるため、どうやって量産するか考えてく必要があります。

試作品を実際に食べてもらったところ、食感の違いを感じてもらい、美味しいと評価を頂きました。

3Dフードフードプリンタはどこに応用できる?

3Dフードプリンタの応用する目的について、思いつくところでは2つですね。3Dフードプリンタでしかできない造形手法による食体験の拡張と、SFなどで出てくるような万能料理機械の実現です。

私は前者の3Dフードプリンタでしかできないことをやりたいと考えていて、新しい料理を作っていきたいです。既存の成形では作れない幾何学的な形など、構造のアレンジができるので従来の型では作れないものを作りたいですね。

他にもキャラクターの形を模した食品を作り出したいと考えたときに、型を作って流し込んで作る場合は作りたいキャラクターの型が必要ですが、3Dフードプリンタでは型を作るという手順を省いて作り出せます。

その結果、手間を省いて個別具体性のある食べ物を作り出すことができると考えています。

現実的に今後作れるようになる食品は?

今メジャーなものは小麦やチョコレートです。特に小麦は硬さや粘性などがちょうど良く、扱いやすい素材だからなのではないかと思っています。

他にもいろいろの食材が使われていますが、現状は小麦やチョコなどの素材が一般的になっていくと思います。

3D フードプリンタでは型を用意せずとも形状の食品を生み出すことができます。

3D フードプリンタでは型を用意せずとも形状の食品を生み出すことができます。

日本で盛り上がり始めている理由と、その一方でなかなか浸透していない理由はなにか。

電通のフードテックプロジェクトが進めている「OPEN MEALS(オープンミールズ)」の「Sushi Singularity(スシ・シンギュラリティ)」がリリースされたタイミングから盛り上がってきた印象があります。そのあたりから一気に3Dフードプリンタの研究が盛んになったような気がしています。

それに対し、なかなか浸透しない理由として考えているのが、現状の3Dフードプリンタは、ハードの開発は多く取り組まれているものの、実際のプリント品についての事例が少なく、料理をする人たちに価値が伝わっていないのではないかということですね。

そういう事もあって、研究ではシェフの方と料理を一緒に作るということを目標としていました。実際に活動の中でお会いしたシェフの方たちも3Dフードプリンタに興味はあるのですが、何ができるのかというメリットの提示が十分ではない印象を受けます。

3Dフードプリンタを活用するにあたって、どのようなスタンスで考えているか

個人的にはデジタルファブリケーター(デジタル工作機械の扱いや、その加工データをつくることのできる人材)とフードデザイナーがコラボレーションすることが一番いい状態だと考えています。

デザイナーとエンジニアの間で相互理解が足りず、喧嘩をするということをよく耳にしますが、もちろんある程度モデリングする人とフードデザイナーがお互いを理解する姿勢は必要です。

デジタルファブリケーターは形状や造形手法についての専門性があり、シェフは素材や調理手法について専門性があります。お互いの専門性を引き出すことで料理の広がりが生まれるのではないでしょうか。コラボレーションは不可欠だと考えています。

3Dフードプリンタの展望について

嚥下食や被災地での食事の問題の解決にも十分貢献できると思うのですが、私としては食品に付加価値を加えたいと思っています。

構造と食感を変えられるというのが3Dフードプリンタがもたらす付加価値で、それが発展すれば様々な領域にも活用できます。例えば嚥下食を例にしても、ミキサーでドロドロにするとなるとすべて同じ食感になりますが、内部に構造の変化や密度を変えることで、食感にも幅ができます。

それだけでも食事で満たされるものはあると思います。このコロナの時期で感じたことでもあるのですが、食事が楽しみの一つになりますよね。

3Dフードプリンタで食品に付加価値を与え、より食事を楽しめるようにしたいです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

3Dフードプリンタは食品を形の制限から開放し、料理の幅を広げる事ができます。食感が面白い食品や、舌触りのいい食品があると、食事も楽敷くなってきますよね。

また、美味しい食品を生み出すためにはモデリングする方とフードデザイナーのコラボレーションが必要不可欠とうかがいました。まだ3Dフードプリンタで作られた食事を食べられるような飲食店はほとんどないようですが、これから3Dフードプリンタが活用されていくのが楽しみです。

【参考】

・「未来と芸術展」が森美術館で開催。電通「OPEN MEALS」が作品を展示

https://dentsu-ho.com/articles/6991

この記事を書いた人
さとうかな
エディター