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GDC報告会に参加して最新のVR/AR情報を得てみた!(後編)

シンラボ編集部
2019/09/16

みなさん、こんにちは。
中村忍です。

前回の記事では、GDC(Game Developers Conference)に参加した方々が報告会を開催したということで、筆者が直々に参加し、その内容について紹介しました。今回、後編となる記事では、株式会社Mogura代表取締役社長の久保田瞬氏と、株式会社メルカリでリサーチエンジニアの諸星一行氏の報告内容についてになります。


おさらいですが、GDCとは、世界中からゲーム開発者やアーティストなどが集まって、主にゲーム開発の最新技術に関する講義や、試作品の展示が行われる、世界規模のゲーム会議です。
2018年度は3月19日~23日までアメリカのサンフランシスコで開催されました。
最近流行のVRに関するセッションも、VRDC(Virtual Reality Developers Conference)という形として行われています。

それでは、久保田氏の報告について、紹介していきます。

久保田氏によるGDC報告

前編でも紹介しましたが、久保田瞬氏は、株式会社Moguraの代表取締役社長で、Mogura VRの編集長を務め、さらにVRのジャーナリストもされています。

Google Mapの地図データでゲーム開発ができる!?

Googleは、ゲーム開発者向けに、Google Mapの地図データが利用できる機能「Google Map APIs」を公開しました。
このJava Script APIからは、現実世界の建物、道路、観光名所、カフェ、公園など数百万の3Dオブジェクトや、ニューヨークや東京をはじめ、世界中の1億もの位置情報を取得できます。

取得したデータに対しては、物体の形状を変形したり、物体の表面の色合いを表すテクスチャ画像を張り付けたりすることが可能です。そして、ゲームエンジンであるUnityとの統合も発表されています。

これにより、地形制作の手間が省くことができるため、ポケモンGoのようなロケーションベース型のゲームの作成が容易になります。
また、現実世界の位置情報をベースに、見た目を荒廃した世界にしたり、スカイツリーにドラゴンを出現させたりと、様々なARコンテンツの作成等が可能になります。

実際に、ナイアンティック社が映画「ハリー・ポッター」のゲームを作成することや、韓国のForThirtyThree社が映画「ゴーストバスターズ」のゲームを作成することを発表しています。

※動画:Google Maps APIs Gaming
出展:engadget(https://japanese.engadget.com/2018/03/15/google-maps-api-unity/)

併せて、今後のVR/ARの動向について説明がありました。現在、特にVRやARが取り立てられていますが、「今後は、現実世界をベースにしたVRになっていくでしょう」と予測していました。Google Maps APIsがまさに先の未来を実現している感じですね。

QualcommのVR開発キットの最新版はアイトラッキング対応

Qualcomm(クアルコム)社は、一体型VRヘッドマウントディスプレイ(HMD)の開発キット「Snapdragon 845 VR Development Kit(=Snapdragon 845 VRDK)」を、GDC2018に合わせて発表しました。
この新開発キットでは主に、

  1. 「Room-scale 6DoF SLAM(=Simultaneous Localization And Mapping)」という、空間スキャンができるシステム
  2. アイトラッキング(視線追跡)
  3. 手認識

といった機能が搭載されています。
Room-scale 6DoF SLAMでは、自分がいる位置を測定する機能に加え、上下左右前後6方向の空間情報の蓄積と、蓄積情報を加工して、部屋の中にいながらもまるで大草原にいるかのようなVR演出が可能になります。

アイトラッキング機能は、ストックホルムにあるTobii tech社の視線追跡アルゴリズムを採用しています。このアルゴリズムは、人間の目に赤外光を当ててその反射パターンを抽出し、目がどこを見ているかを画像処理で解析することによって、目の動きを認識するというものです。

手認識機能は、超音波で人の手の動きを感知します。これにより、手のジェスチャーでカメラのシャッターを切ったり、ペンの動きを認識して文字を書くいったことが可能になります。
Snapdragon 845 VRDKは、2018年度の第2四半期にリリースされるとのことですので、その頃からVRDKの仕様に沿ったスタンドアローンHMDが市場に出てくるでしょう。

諸星氏によるSXSW報告

諸星一行氏は、株式会社メルカリのVR/AR/MR領域の研究開発部門のリサーチエンジニアで、日本バーチャルリアリティ学会認定のVR技術者でもあります。
諸星氏からは、GDCとほぼ同時期に、同じアメリカのテキサスで行われた「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」についてお話がありました。

SXSWは、音楽と映像のテクノロジーの祭典で、主に、世にまだ出ていないアイデアやソフトウェアのプロトタイプを公開するような場です。1987年のテキサスでの開催からスタートし、これまでに30回以上開催されています。2018年度は3月9日から18日にわたり、展示会や1000セッションほどの講演会が行われました。そのうち、VR/ARのセッション数は40程度とのことです。

では、諸星氏から報告があった、SXSWで体験したイベントの中から、A(i)R Hockeyを紹介します。

A(i)R Hockey (エーアール エアーホッケー)

Sony株式会社が出展した「エーアールエアホッケー(=ARエアホッケー)」が注目を集めました。これは、「円形の台を舞台に、赤・青・緑の3チームに分かれて対戦する、新感覚のARホッケーゲーム」とのことです。

エアホッケーは、「パック」と呼ばれる円盤を「マレット」と呼ばれる器具で打ち、自分の陣地に入れないようにするというのがルールです。関口宏の東京フレンドパークで、お笑い芸人のホンジャマカとの対戦を連想される方もいるかと思います。

ARエアホッケーでは、1対1または2対2ではなく、3人に分かれて対戦します。物理的なパック1つから始めますが、試合の途中でデジタルなパックが登場してくるなど、会場をにぎわせたということです。

※動画:Sony Design: SXSW 2018 – A(i)R Hockey
出展:Sony株式会社

※掲載当時のURLにアクセスできなかったため、2020年 4月25日現在アクセス可能な動画に修正しております。

ARエアホッケーに使用されている技術は、

  1. パックとマレットをリアルタイムにトラッキング&動きに合わせてプロジェクション(投射)
  2. 触覚提示技術(ハプティクス技術)

というのがあります。
リアルタイムトラッキングについては、ソニーが独自に開発した高速ビジョンセンサー「IMX382」が使われています。これは、2017年5月に発売され、1/1000秒という高速でトラッキングします(詳細は、本文最後の「参考」の「高速ビジョンセンサー「IMX382」」をご覧ください)。

ARエアホッケーでは、上下にIMX382を付け、天井のカメラセンサーからパックの動きを、下が3つのマレットの動きを検知しています。
ハプティックス技術は、マレットとパックが当たった感触を表現するために使われているのですが、そもそも当たった瞬間にハプティックスを実行するのでは遅すぎて不自然な感触になるそうです。

それを、IMX382が常にパックを検知しているのを利用して、コンピュータであらかじめパックの動きを予測し、先に指示をだすことで不自然さを解消しています。

ちなみに、ARエアホッケーに先んじたテーブル型のARスポーツとしては、株式会社アカツキの「PONG!PONG!」があります。
こちらは、AR卓球ですが、ラケットに当たったピンポンで卓球台上のブロックを崩すという、ちょっと変わった趣向のゲームです。

※動画:プロモーションムービー PONG!PONG!
出展:VRInside

座談会で聞けた最新情報!

発表の最後に、久保田氏、諸星氏、前編の池田氏の3人による座談会が行われましたので、その中から筆者が興味深いと感じた内容を紹介します。

Q1. 海外のVR/ARの盛り上がりはどうでしょうか?
A1. VR自体は一般化してきています。欧州では、映像作品としてのVRは人気です。ただし、ビジネスとしてやるためには、収益が見込めるまでには至っていません(成功例がない)。
中国では、ハードウェアは強いですがコンテンツ(ソフトウェア)は弱く、日本のをパクっているものがほとんどで、中国製のコンテンツはほとんどありませんでした。

Q2. GDCに参加して、ARについての感想はどうでしょうか?
A2. GDCでは、ポケモンGoのようなロケーションベース型のARデバイス(ハードウェア)の展示が多く見られました。VRコンテンツ(ソフトウェア)の展示は少なかったのですが、そもそもGDCは、ハードウェアを展示するところであるため、コンテンツは来場した企業が作ってくださいということです。

Q3. Google、Facebookの今後の動向はどうでしょうか?
A3. GoogleはARに、FacebookはVRに力を入れていくでしょう。特にFacebookは、Occulus社を買収しているため、VRに強いです。2018年~2019年にかけては、今までパソコンやスマートフォンを通じて行っていたコミュニケーションから、VR空間内でコミュニケーションを行い、何かしらの活動をするスタイルを流行らせていくでしょう。
Occulus社のVRデバイスである「Occulus Go」は、電源を入れるとすぐ起動するという強みがあり、その中で日本のコンテンツをどのように組み合わせるかが鍵となっていきます。
なお、Occulus社をはじめとするVRデバイスについてはこちらの記事でも紹介しています。

Q4. HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着しないVR体験の人気度は?
A4. 欧米でも抵抗なく、特に子供にとってはHMDの重さがないため、好評でした。ちなみに、このVRの仕組みは、ドーム型のような空間に対し、CG映像を自分の向いた方向にプロジェクションマッピング的に表示するというものです。

Q5. VTuber(VR Youtuber)の認知度はどれほどでしょうか?
A5. VTuberは日本で流行っていますが、FacebookやGoogleなどで働く一般人に対しては認知度は低いです。むしろ、アバター(VR上に登場させる、自分をモチーフにした3Dキャラクター)の方が人気が高いです。

まとめ

ここまで、前編、後編の2回に分けて、GDCやSXSWでの最新のVR/ARの報告について紹介してきました。

筆者としては、Google Map APIやOcculus Goの話がとても印象的でした。Google Map APIはVR/ARやゲームなどのコンテンツ制作にかかる時間が大幅に削減できると思いますし、Occulus Goは今まで個人で本格的にVR環境を揃えようとしたら10万円前後かかっていたものが数万円程度で揃えられるなど、ニンテンドースイッチと同じぐらいの手軽さが魅力的に感じます。

2019年度のGDCは3月18日から22日と、日程のみが公開されているようです。
筆者も機会があればぜひとも行ってみたいですが、皆様も研究や業務の幅を広げる意味でも行ってみてはいかがでしょうか?

参考

この記事を書いた人
シンラボ編集部
エディター