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日本の天才研究者が編み出した量子コンピュータ

シンラボ編集部
2019/09/16

※本記事は、未来技術推進協会ホームページにて2018年 2月25日に掲載されたものです。

みなさんこんにちは。
松下忍です。

前回の「量子コンピュータとは何か?」の記事に引き続き、今回も量子コンピュータのお話です。

前回は、量子コンピュータの概要と、量子コンピュータには「量子ゲート方式(回路モデル)」と「量子アニーリング方式」の2種類の方式があることについてお伝えしました。
量子コンピュータと聞いて、はてなマークが浮かぶ方は多いかと思います。私も言葉は聞いたことがありましたが、具体的にどういうものかを想像してくださいと言われたら、はてなマークが浮かびます。
前回の記事でもお話した通り、量子コンピュータの第1人者の東京工業大学の西森 秀稔(にしもりひでとし)教授にお話を聞く機会がありました。そこで、その時の内容を元に「量子ゲート方式(回路モデル)」と「量子アニーリング方式」についてや、量子コンピュータに対する疑問について話していきたいと思います。


西森教授の講演会を聞いてみて

西森教授は1954年生まれと、筆者の親と同世代です。世間一般的には、長年勤めた会社を退職し次の人生を生きていらっしゃる世代です。西森教授はとてもエネルギッシュかつフランクな方で、講演会の時は難しい量子コンピュータの知識を私たち一般人にもわかりやすいように説明してくださり、圧倒的なプレゼンテーション能力がある方だと感じました。
特に印象的だったのが、「量子力学の原理がなぜそうなのか、なぜ常識と違うのかと聞かれても、それは実験結果の事実がそうであるため、神のみぞ知る」という話でした(笑)
超知識人と呼ばれる方でもそのようにおっしゃられるということは、この世はわからないことだらけだなと思いました。


西森教授の提案した量子アニーリング方式は何が新しいのか?

現在、量子コンピュータには古くから提案されている量子ゲート方式(回路モデル)と、西森教授が1998年に提案した量子アニーリング方式という2種類の方式があります。量子ビットとは何か?といった量子コンピュータに関する専門的な説明はここでは割愛し、機能性の面から簡単にお伝えすることとします。専門用語など、詳しくは参考に記載されている西森教授のURL等をご覧ください。

・用途
量子ゲート方式は、現在のコンピュータの上位互換で汎用的な用途に使われます。
量子アニーリング方式は、巡回セールスマン問題(※営業マンが最短のルートで街中を移動できる経路を算出する)といった組み合わせ最適化に特化し、特定の問題を解決する用途に使われます。

・強み
量子ゲート方式は、現在のコンピュータに対して劇的な高速化が見込める可能性があります。量子アニーリング方式は、組み合わせ最適化問題に強く、富士通での新薬発見や災害救助といった社会的問題の解決にも有用です。また、磁気といったハードウェア的なノイズにも強く、開発状況も量子ゲート方式の50量子ビットに対し2000量子ビットまで進んでいます。

・弱み
量子ゲート式は、ハードウェア的なノイズに弱く、開発状況も数十量子ビット程度です。量子アニーリング方式は、特定の問題にのみ特化しているところです。

・実用化
西森教授によると、量子ゲート式の実用化は早くて数十年後ということです。量子アニーリング方式は、通常のコンピュータとの併用がすでに始まっています。

現状では、量子アニーリング方式の実用化が始まっているとのことで、量子ゲート式も実用化に至ることが楽しみですね。

量子コンピュータQ&A

西森教授が話されていた、量子コンピュータに関する誤解や疑問についてお伝えしたいと思います。
特に、量子コンピュータは夢のマシンであるというのは大きな誤解だそうです。筆者自身大好きなSonyや任天堂のゲーム機が量子コンピュータに取って代わればすごくなるのではないかと期待していたのですが、そもそもゲーム機は量子コンピュータには置き換えられないとのことでした(残念)。

・量子コンピュータは既存のコンピュータに置き換わられるのでしょうか?
それは誤解だそうです。量子コンピュータは車で言うとレーシングカーのような立ち位置で、レーシングカーを街中でむやみに走らせても意味がないのと同様、やみくもに使えばよいということではないそうです。量子コンピュータにしか適応できない状況で使い、既存のコンピュータと合わせて使うのがいいのではないかということでした。
また、量子コンピュータはどんな問題でも超高速に解ける夢のコンピュータであるということも誤解であり、量子コンピュータで解決できる問題の種類は非常に限られているとのことです。

・量子ゲート式と量子アニーリング式は、問題の解き方がどう違うのでしょうか?
量子ゲート式は、コンピュータプログラムを1行1行実行するようなイメージで、問題に対する解き方はアルゴリズム(問題解決方法)を考える人の質に依存します。
量子アニーリング式は、マシンにパラメータ(設定値)を与えるようなイメージで、問題に対してのパラメータ化ができれば、あとは機械が勝手に答えを算出してくれます。

・量子コンピュータはムーアの法則の終焉を解決しますか?
(※ムーアの法則の終焉=コンピュータの性能は年々倍増するが近年は頭打ちになっています)
ものによります。解決できる部分もあれば解決できない部分もありますので、他の技術と共に弱点を補いながら解決する必要があります。

まとめ

西森教授のお話で非常に勉強になった話題があります。それは、日本の研究者個人の能力は非常に高く、海外の研究者とも比べて遜色ないのですが、研究者同士のつながり、会社や研究機関を越えたつながりといった、横のつながりが海外に比べて非常に弱いということです。また、投資が積極的に得られにくいといった問題も抱えています。

アメリカでは量子コンピュータに大規模な投資があり、googleでは量子プロセッサをクラウドで提供するといった計画まで進んでいます。中国でも、国家の4大重点科学技術のひとつに量子情報技術をあげ,1兆円の投資がされているそうです。
日本では、文部科学省が2016年に第5期科学技術基本計画と題してSociety5.0(サイバー・フィジカル空間の融合)が提唱され、その中で使われるAIやIoTの高速化・最適化や新産業の創出といった目的で量子技術の研究開発に取り組み始めたものの、従来から抱えている人や資金面での問題は、量子コンピュータに限らず私たち日本人が直面している問題です。
最初のほうで述べた通り、量子アニーリング方式の理論は西森教授が20年も前に考えたものですが、実用化したのはカナダのD-Wave社であり、もし日本の企業で量子アニーリング方式の研究開発に投資できるところがあったらと、非常に残念な思いです。

未来技術推進協会では企業や研究者同士の横のつながりを持つ場を提供するために、有名教授の講演会やアイデアソンといったイベントを行っています。
量子コンピュータに限らず、学内や社内を越えて刺激を受けたい方は、ぜひ未来技術推進協会のイベントに足を運んでみてください。


参考サイト

この記事を書いた人
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