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実践例から学ぶESD〜持続可能な開発のための教育〜

シンラボ編集部
2019/10/01

※本記事は、未来技術推進協会ホームページにて2019年5月29日に掲載されたものです。

おはようございます。平野羽美です。
大学を卒業してから早数年。最近の悩みは新入社員と話した時に世代のギャップを感じることです。

中学・高校・大学と学んでいる内容も今と昔とでは変わっているのでは?
と思いつつ調べていると、最近の教育では「ESD(持続可能な開発のための教育)」というキーワードが注目されているということを知りました。
今回の記事では、未来技術推進協会でも多くのイベントで取り上げているSDGsの目標達成にも関係するESDについて実践例も交えてご紹介していきます。


ESD(持続可能な開発のための教育)とは?

ESDは、Education for Sustainable Developmentの略で日本語では「持続可能な開発のための教育」と訳されています。
ESDを通して、環境問題・貧困・人権差別などの様々な社会問題を自らの問題として捉えて、身近な所から解決に向けた行動や学習を進めていきます。これにより「持続可能な社会」を作っていくために必要な考え方や価値観を学んでいく、といった流れになります。

文部科学省HPの解説では、ESDの目標として以下のように紹介されています。

ESDの目標

  • 全ての人が質の高い教育の恩恵を享受すること
  • 持続可能な開発のために求められる原則、価値観及び行動が、あらゆる教育や学びの場に取り込まれること
  • 環境、経済、社会の面において持続可能な将来が実現できるような価値観と行動の変革をもたらすこと

また、ESDを推進することで育みたい能力としては、持続可能な開発に関する価値観や思考力の他に、データや情報の分析能力やリーダーシップ能力の向上なども挙げられています。
教育というと子供向けというイメージが強い方もいらっしゃるかと思いますが、持続可能な社会を実現していく上では、これからの時代を担う若手への教育はもちろんのことながら、若手に伝える側となる大人への教育という観点も多分に含まれていると言えます。

日本においては、先進国として環境保全などの環境問題へのアプローチを入口として、経済や社会の発展に取り組みつつ、開発途上国を含む世界全体の課題解決を進めていくことが求められています。
最近では、プラスチックごみによる海洋汚染や飲食店における食料の大量廃棄など、持続可能な社会の実現に向けた課題が身近なニュースとして取り上げられることも多くなってきているかと思います。
こういった身近な例から、日本から他国、他国から世界全体へと視点を広げていくことがESDを推進していく一歩になっていくのではないでしょうか。

ESDの歴史

ESDの歴史は意外にも古く、持続可能な開発の実現に向けた教育についての役割が記されたのは1992年にリオ・デ・ジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議(国連地球サミット)」と言われています。
その後、2002年にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット)」で小泉総理大臣が持続可能な開発における人材育成の重要性を強調し「持続可能な開発のための教育の10年」を提唱しました。
これを受けて、2005年からの2014年までの10年を「国連持続可能な開発のための教育の10年」としてユネスコ主導で各種取り組みが進められました。
2013年11月には「国連持続可能な開発のための教育の10年」の後継プログラムとして、「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)」が第37回のユネスコ総会で採択され、2014年の第69回国連総会で承認されています。

ESDの実践例

最後にESDについての具体的な実践例をユネスコスクール ESD優良実践事例集からいくつかご紹介します。

岡山県岡山市立 京山中学校の取り組み

岡山県の京山中学校では、ESDの視点によりカリキュラムを再構築し、学年ごとの評価基準表を作成しESDカレンダーによる図式化を行いました。
1年生では地域フィールドワークで探求活動を学び、広島研修を中心とした平和学習への取り組みを進めます。2年生では人権・国際理解・環境の学習に取り組み、東京の学校との意見交換を行っています。3年生では水俣フィールドワークを中心に環境問題等のテーマを設けて研究活動を行い、地域や未来への提言として発信しています。

これらの取り組みは、生徒だけでなく教員や保護者の意識改革にもつながっており、ESDに対する理解促進や教職員間での連携による授業改善などの成果が得られたとされています。
この京山中学校の取り組みはESD優良実践事例として文部科学大臣賞にも選ばれています。

参考:京山中学校 – ESDの取り組み

東京都小笠原村立 小笠原小学校の取り組み

小笠原村父島の小笠原小学校では、小笠原の自然遺産についての学びを深め固有種と外来種の課題についてのアプローチを進めています。
3年生では小笠原固有の昆虫について、4年生では海岸と山との植生の違いや季節による変化から小笠原固有の植物について学習します。5年生ではアオウミガメの生態について学び、島民や観光客への発表も行っています。6年生では絶滅危惧種であるアホウドリについて学習し小笠原の人々の自然保護活動について理解を深めています。

小笠原小学校の児童はこれらの取り組みにより、外来種を駆除するのではなく固有種と外来種の共生の道はないか、という新たな価値観を創出しようとし、すべての生き物と仲良くする行動に出ているとされています。
この小笠原小学校の取り組みはESD優良実践事例として審査委員特別賞にも選ばれています。

参考:小笠原小学校 – ESDの取り組み

ESDの取り組みは、今回ご紹介した2校以外でも多数実施されています。
近い将来には、持続可能な社会に対する教育や意識が広く浸透していくことで新しい視点や考え方を身につけ、イノベーションを起こすきっかけになる可能性があるのではないでしょうか?
シンギュラリティラボという形で、イノベーションの創出を狙っている未来技術推進協会としても、ESDの取り組みの拡大は大きなカギとなってくるのではと感じます。


まとめ

いかがでしたか?
今回は、ESD(持続可能な開発のための教育)の概要と歴史、中学校や小学校での具体的な取り組みについて紹介してきました。
SDGsを中心とした「持続可能な開発」という言葉はここ数年で広まってきた印象ですが、ESD(持続可能な開発のための教育)自体の歴史は長く、ユネスコスクールではすでに多くの取り組みが進められていることがわかりました。
今後はこういった取り組みをより多くの人に広め、日本中ひいては世界中に広めていくことで「持続可能な社会」を作っていけるのではないでしょうか。

未来技術推進協会でも、SDGs推進に関するイベントや研修、SDGsボードゲームを活用した学校向けの取り組みを進めています。生徒向けだけでなく教職員の方向けのワークも提供しておりますので、ESDやSDGs推進に関する取り組みを進めたい、といった際にはお問い合わせいただければと思います。

参考

この記事を書いた人
シンラボ編集部
エディター