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ATR 鈴木専務のインタビュー第5弾 ~未来を担う若者への期待とアドバイス~

福田
2020/05/05

みなさん、こんにちは。
シンラボ広報部 福田です。

未来技術推進協会のアドバイザーとしてご尽力頂いている株式会社国際電気通信基礎技術研究所(通称ATR)の代表取締役専務 経営統括部長・事業開発室長である【鈴木 博之(すずき ひろゆき)】さんにシンラボ広報の高橋部長と一緒にインタビューさせて頂きました。一時間を超えるロングインタビューでイノベーションや事業開発、人材育成などについて熱い思いを語ってもらえました。全5回に分けて公開してきましたが、今回が最終回となります。

今回の記事と合わせて過去のインタビュー記事も合わせてご覧下さい。

第1弾:研究者からマネージャーとしての生き方・考え方
第2弾:経営者への転身と研究者ならではの経営スタイル
第3弾:研究成果の事業化を目指した奮闘の日々
第4弾:ATRを舞台に研究成果を世の中に出す取り組みと未来技術推進協会とのつながり

― 目先の利益よりも長期的な大きな利益を目指した取り組みへ

これからの社会のことを考えると、若い人が本当に頑張っていかないとダメだと感じています。できれば、もう少し中間管理職が余裕をもって、長期的な視野での若手の成長を実現して欲しい。“損して得取れ”という諺がありますが、目先の成果ももちろん大事ですが、短期の成果を多少犠牲にしてでも長期的に大きな成果を実現するという視点も持って欲しい。

私の場合は、総計で1年半に渡って招聘(しょうへい)研究員や訪問研究員として海外の大学に滞在する機会がありました。当時私が日本に残っていたら、上司の視点からすると短期的にはもう少し成果が出ていたかもしれないです。ただ、外部から会社に戻ったときに2~3倍の力をつけてくる可能性もあります。そうなると、長期的な視野で考えれば会社にとってどちらがプラスになるのかという話になります。もちろん、全ての人に対してということではないですが、組織全体の中で短期と中長期のバランスをとった運営をした方が良いのではと思います。

結局、目先の成果のためだけに、自分の部下であるキーパーソンを手放さないようにすると組織全体がどんどん小さくなってします。そうなると、本当に優秀な人が伸びていかない。そういう繰り返しが会社全体ひいては日本社会全体に広がり、危機につながっていくと感じています。

― 未来技術推進協会の若手への期待

そのような観点で未来技術推進協会の皆さんのように具体的なアクションを起こしている人が極めて重要です。私はこれまでの社会人生活でかなり自由にやらせてもらった分、その経験を若い皆さんに伝えていきたいです。また、所属企業に業務を通じて貢献しながら、自分のやりたいことを実現する“うまさ”も是非身に着けて欲しいです。結局、自分がやっていることが会社への貢献になり、自分にとってもプラスになればベストじゃないですか。

― 自分のやりたいことを会社に認めてもらう努力

重要なことは、自分のやりたいことだけを主張するのではなく、自分のやりたいことを会社に認めさせることです。そのためには、まず会社(上司や同僚)に信頼してもらうこと、この人だったら仕事を任せても大丈夫だと認識してもらわないとダメです。同じことを提案しても、Aさんなら良くて、Bさんだとダメだということはたくさんあります。

だから、私は皆さんに「最初が大事だよ」と言っています。最初に“仕事が出来る人”だと思わせたら後は楽ですが、“ダメな人”だと思われたら同じことをやるにしても10倍大変です。最初にそこをクリアして、“自分の得意なこと”、“やりたいこと”、あるいは“熱意を持てること”を会社の中でオーソライズして、成果を上げていってもらいたい。そのような取り組みを継続することで、会社の中でどんどん信頼され、会社や個人の両方にとってプラスになることが一番です。私自身も、このような経験を少しでも若い皆さんに伝授できれば最高です。

― 若手の自由度の確保に向けた中間管理職の考え方

この点は色々なやり方がありますが、最も重要なことはその人の能力を見極めることです。まずはチームの中で出来る人を見極め、その人にかなりの自由度を与えることが大事です。その上で中管理職として責任を持って、その人をサポートしてあげる。

例えば、その人が外部のイベントなどで出張していた場合に、中間管理職が上司に指摘されても理由をちゃんと説明してあげるなど、若手に被害が行かないような配慮が必要です。ただ、このような自由度を与えるトレーニングが通用しない人がいるのも事実ですので、ちゃんと見極めて鍛えることが大事になります。また、中間管理職自身がその上司に信頼されている必要があるので、まずは自分が上司に信頼されることも重要です。

― トップを伸ばすマネジメントの有用性

マネジメントには、“ボトムアップ”と“トップを伸ばす”の2通りあります。私はずっとボトムアップのマネジメントでやっていましたが、ある時に「トップを伸ばすべき」とアドバイスされて、確かにその通りと思いました。それ以降、トップを伸ばすマネジメントに変えました。

“トップを伸ばすということ”は、ボトムは成長しない人もいますが、少なくとも中間層が伸びていきます。つまり、トップを伸ばすことが組織全体のチーム力向上につながるのです。ただ、どうしてもうまく成長させてあげられない人が必ず何%かいるのは仕方がないことです。この“ボトム層の引き上げ”にエフォートを費やすと相当大変ですし、チーム全体のレベル向上には、“トップを引き上げるマネジメント”と比較して効果は小さいです。是非、一番優秀な人を見つけ、裁量権を与えて、その人を囲い込まないような施策をしてもらいたい。

一方、中間層の人には具体的なテーマを設定し、一部を手伝ってもらう中でうまく成功体験をさせてあげることが重要です。そうすると、自分がやったと自信を持ち、次の自主的な行動につながっていきます。ただ、場合によっては自分の実力を過信しすぎる人がいるので、そこはうまくマネジメントしてあげないといけないです。

― 組織に蔓延する技術志向の考え

私見ですが、近年日本がうまく成長しなかった一つの理由は技術屋が強すぎという点に一因があると思っています。色々な製品に対して不要な機能を付けるなど、顧客ニーズとのずれをちゃんと認識してこなかったのだと思う。例えば、私が所属していたNTTの研究者のように事業との接点がない人たちにとって重要だったのは、NTTエレクトロニクスやNTTアドバンステクノロジなどの子会社を通して事業化を実体験させることでした(インタビュー記事第一弾参照)。結局、若いころの私も同じでしたが、研究者は社会のことはあまり興味を持たないです。そういった人に対して、社会との接点を持つことがどれだけ大事かということを認識してもらうことが重要だと思います。

研究者が研究面から事業化を通じた社会貢献にアプローチしていくのは当然ですが、それだけではうまくいかないことがほとんどなのが問題の本質です。ただ、研究と事業の両方を結ぶことが出来る人がいれば、その課題は解決されます。そのような人が研究チームの上司である必要はないですし、他のチームの人でも良いのですが、少なくとも若い人は自分の世界以外を知ることが重要だと思いますね。

― 全てを一人でやることで実現できる飛躍的な成長

大企業だと、一人の人間は組織の中の一つのパーツになります。これは組織を運営するためには必要なことですし、みなさんが与えられた職務を全うするために一生懸命やっており、それは良いことだと思います。ただ、特に大企業では一担当者の分担範囲が本当に小さくなってしまいます。

一方、自分でスタートアップを始めた人は、良くも悪くも全てを自分でやらないといけない。個人の成長としては、これを上回る経験はないです。大企業の取り組みとして一番良いと思っているのは、優秀なキーパーソンを外部に出して、自分で全てを経験させる。具体的に、企業運営に関係する全てのこと、経営的な数字の管理(管理会計)、財務、研究、外部との交渉、お金集めなどを自分で経験させた方が良いです。そういった経験をさせることで会社の今の部署に10年いるよりも、1年で大きく成長できます。

ATRの場合は、研究の遂行以外にも会社の運営資金や給料も自分で稼いでこないといけない環境なので、一般的な大企業と比較すると危機意識が全く違います。何にお金を使うにしても、コスト意識が違っています。そういうことも含めて、担当の集合体でない組織を如何に作るかがこれからの日本企業には必要になってくると思っています。

実際問題、どれほどうまく担当を分担しても、絶対に境界領域があって、誰がやるか分からない仕事は出てきます。そういった状況に対して、担当以外の人が何かやらないと会社や組織がつぶれるような状況だとやらないといけないですよね。担当者としては、そういった境界の仕事を対応することで新たに見えてくることもあるし、そのような積み重ねで組織が存続していくことが実は結構あります。そういった場合には、優秀な上長がフォローしている場合もありますが、気の利く派遣スタッフとか社員などが職位や雇用形態に関係なく動いてくれている場合も多いです。そこは軽視しちゃいけないんです。職位とか関係なく優秀な人がいたら、職位以上の権限を持たせて鍛えることが極めて重要であると思います。

おわりに

全5回に渡って未来技術推進協会のアドバイザーである鈴木さんのインタビュー記事を掲載してきました。技術の事業化や人材育成、そして未来技術推進協会との関係などを網羅的に紹介しました。最終回は我々のような学生や若手、中間管理職へのこれまでの実体験からくる含蓄のあるアドバイスを頂きました。仕事を自分事としてある程度の自由度を持って進めていくことは、会社から言われたことを完璧に対応することよりも、困難な面があります。それを乗り越えて個人としての成長を実現する環境を未来技術推進協会やその他の場所が提供していくことや私たち一人一人がそういった環境で自己成長や自己実現を達成していることが社会的な使命だと思いました。

全5回に渡って公開してきましたATR鈴木専務インタビューシリーズ一覧は下記になります。是非、ご覧ください。

第1弾:研究者からマネージャーとしての生き方・考え方
第2弾:経営者への転身と研究者ならではの経営スタイル
第3弾:研究成果の事業化を目指した奮闘の日々
第4弾:ATRを舞台に研究成果を世の中に出す取り組みと未来技術推進協会とのつながり
第5弾:未来を担う若者への期待とアドバイス

ご紹介

株式会社国際電気通信基礎技術研究所

研究内容
・脳情報科学
・ライフ・サポートロボット
・無線・通信
・生命科学

所在地
京都府相楽郡精華町光台二丁目2番地2(けいはんな学研都市)

この記事を書いた人
福田
エディター